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五月三十日、土曜日、午前二時。
オレ、A市は、意を決してI子を誘い出す事にした。
そして今、カウンターバーで、並んで座っている。
彼女の目の前にはマンハッタン、俺の目の前にはギムレット。
しかし、お互いにそれに口を付けることなく、十分ほど過ぎた。
「で、話ってなんなの」
沈黙に耐え切れなくなったのか、I子の方が先に切り出した。
回りくどい話は止めよう。
オレはその首を左に九十度曲げると、I子に微笑みかけた。
「前から好きだったんだ。付き合ってくれないか」
しばしの沈黙。
彼女の頬は紅く染まらない。
I子は暫くオレを見ていたが、その視線をマンハッタンに向けると、グラスを回し始めた。
「そういう言葉は、本人の言葉で、本人に言うべきよ」
それだけ言うと、彼女はそのカクテルを一気に流し込んで、席を立った。
「・・・・・・やっぱり、ダメだよな」
オレも、ギムレットを一気に流し込むと、マスターに「釣りはいらないから」と、一万円札を目の前に置いて、席を立った。
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