想い

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「真っ赤で可愛い」 「うるさい! 変なこと言う……」 「どうしました?」  ふいに言葉を途切れさせ、目を見開く僕に藤堂は不思議そうに首を傾げた。 「いや、悪い……眼鏡」 「ああ」  僕の言葉にやっと合点がいったのか、藤堂は机の上に手を伸ばしてなにかを掴む。カチャリと音を立てたそれは、普段藤堂がかけている銀フレームの眼鏡だ。 「伊達じゃないよな?」 「まあ、それなりに度は入ってますよ」  手にした眼鏡を藤堂は僕の目の前にかざして見せる。ほんの少しレンズの先が歪んで見え、わずかながらに度が入っているのがわかった。 「どうしたの佐樹さん」  僕をじっと見つめ、急にふっと笑みを浮かべた藤堂。その表情にぼんやりしていた僕は我に返った。 「あ、いや、その」  自分でもわかるくらいに顔が紅潮する。たかだかレンズ一枚、隔てるものがなくなっただけで、その目に映るものがはっきりと見えて、恥ずかしくなってきた。  綺麗な黒目に映る自分の姿は羞恥以外のなにものでもない。 「コンタクトにしたりしないのか」  その場を誤魔化すように眼鏡を指差すと、藤堂は少し眉をよせて息を吐く。 「ああ、ケアが面倒だし。余計な出費ですから」
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