休息

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 藤堂からいつも届く朝のメールだ。大して中身のない「おはよう」の挨拶だけだが、これには意味がある。 「もう電車に乗ったのか」  普段、平日の朝にだけ来るこのメールは、藤堂が電車に乗った頃に送信される。なのでこれはいま電車に乗りましたという合図のようなものだ。彼の最寄り駅は僕の駅と同じ沿線で、あいだに七つ駅を挟む。なのでのんびりしていると、あっという間にこちらに着いてしまう。  時計を確認し、少しだけスピードを上げて身支度すると、僕は目と鼻の先にある駅へと急いで向かった。  休日の朝はさすがに静かだった。普段はたくさんの人が行き交う場所は閑散としていて、人波などまったくない。ひと気の少ないやけに広々とした駅前の広場を過ぎ、約束の五分前に改札口を通り抜ければ、ちょうど藤堂が階段を下りてきた。 「おはよう」 「おはようございます」  軽く手を上げれば、爽やかな笑顔が返ってくる。朝に見る藤堂の微笑みは妙に眩しく感じる。こうキラキラとしたオーラが周りを取り巻いているような感じだ。 「なんか目が覚めるな」  思わず口から出た言葉に、自分で笑ってしまう。しかしそのくらいに藤堂が眩しくて、気分が高揚していくのを感じる自分がいるのだから、仕方がない。 「なんですかそれ」  そんな浮かれた僕に藤堂は不思議そうな顔で首を傾げるが、僕は苦笑いを浮かべて、その場を誤魔化すようのんびりと歩き始めた。朝から藤堂に見惚れてました、なんて恥ずかし過ぎてそんなことは絶対に言えない。 「さすがに空いてるな」  目的地はこの駅で別の線に乗り換え、電車とバスを乗り継ぐ。日帰りだが片道二時間弱で、ちょっとした小旅行な気分だ。ホームに着きちょうど来た電車に乗ると、その中も駅前と同様にひと気は少ない。おそらく目的地が同じと思える家族連れや中高生くらいのグループなどをちらほら見かける程度だ。
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