休息

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「いまから行く場所は連休中なんでまったく混んでないとは言えませんけど、多分余所より広いのでいくらかマシですよ」  ぼんやりと車内を眺めていた僕は藤堂の声に振り返る。すると隣に座っている藤堂がふっと目を細め、やんわりとした優しい微笑みを浮かべた。 「ふぅん、そうか」  相槌を打ちながら僕はなぜかその姿をじっと見つめていた。しばらくそのままでいると、藤堂が不思議そうに小さく首を傾げる。  相変わらずプライベートの藤堂には少し戸惑う。普段と一緒で決して派手ではない。着ているものも黒地のシャツとデニムにグレーのシンプルなデザインのジャケット。それはまったく華美ではないし、アクセサリー類はつけないほうなのかシンプルだ。戸惑う原因は髪型や眼鏡のせいだろうか。なんだかいつもと違う雰囲気で大人っぽいその姿にそわそわしてしまう。 「藤堂」 「なんですか?」 「ん、いや、なんでもない」  数少ない乗客の多くが藤堂を振り返る――そんな視線を感じて、胸の内にモヤモヤしたものがくすぶってくる。でもこんな公衆の場で、こんないい男がいて、振り返るなというほうが無理な話だ。 「心が狭過ぎる」  嫉妬――ふいに浮かんだその感情に僕は肩を落とした。いままではこんなこと感じたことがなかったから、余計にその感情に翻弄される自分がいる。 「どうしたの佐樹さん」  微かな僕の呟きに訝しげな表情を浮かべた藤堂は、座席に置いていた僕の指先にさり気なく触れる。 「な、なんでもない」  その感触に僕が思わず肩を跳ね上げれば、どこか含みのある藤堂の笑顔と共にそれは離れていった。一体どこまで藤堂に心の内を見透かされているんだろうかと思う。知っていてもらえる嬉しさと、独占欲の塊みたいな自分に気づかれる不安とが、ごちゃまぜになってどうしたらいいかわからなくなる。
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