休息

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「お前が行きたいとこって言ったのに」 「俺は佐樹さんが楽しいならそれが一番嬉しいですよ」 「うーん、まあ藤堂がよければ、それでいいけどな」  なんのてらいもなく当然だと言わんばかりの顔をされると、甘やかされていることをしみじみ実感してしまう。これじゃあ、どっちが歳上かわからない。でも悔しいがこの気遣いと優しさには完敗だ。 「もしかしてそんなに好きじゃないですか?」  反応の薄い僕に不安になったのか、ふいに藤堂の表情が曇った。 「いや、かなり好き」  藤堂がしょげた気配を感じて、慌てて訂正すると、あからさまにほっとした表情を浮かべられてしまった。ただ確かにもちろん楽しみなのだが――心の中にほんの少し残る気持ちがある。 「藤堂の好きなものとか、場所とかってなんだ」  なによりも今回は藤堂のことを知るのが第一の目的だったのだ。いつものように自分が主体では、その目的が果たされなくて困ってしまう。 「俺、ですか」  なに気なく問えば、藤堂は難しい顔をして真剣に悩み出す。  そういえば以前三島が、藤堂はあまり物事に興味がなかったと言っていたけれど、もしかしたらいまだにそうだったりするのだろうか。そうだとすると、いま無理に聞き出すのは止めておいたほうがいいかもしれない。 「思いつかなければいいぞ。なにか思いついた時に言ってくれれば」  なんだか本気で悩んでいて少し可哀想になってくる。しかしあまり隙を見せない藤堂の、そんな不器用過ぎる一面が見られるのは楽しい。 「佐樹さんって時々意地の悪い顔をしますよね」 「そ、そうか?」  いつの間にか緩んでいた頬に気づき、両手を頬に当てて引き締める。すると僕の顔を覗き込んでいた藤堂が口を尖らせ目を細めた。 「まあ、いいですけどね」  乾いた笑い声を上げる僕に肩をすくめて、藤堂は小さなため息をついた。 「悪い、でも藤堂のちょっと不器用な感じが可愛くて好きなんだよな。お前って割となんでも完璧だし」 「……前にも言いましたけど、俺は全然完璧じゃないですからね」 「わかってるって、イメージだよイメージ」  顔を片手で覆い俯いた藤堂の頭を撫でれば、再び小さなため息が吐き出された。
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