休息

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 二人で暢気なやり取りをしていると、いつの間にか電車はトンネルに差しかかる。さほど長くない真っ暗なその中を過ぎれば、途端に外の景色はその様子を変えた。マンションやらビルやらが立ち並ぶ賑やかな風景とは一転、背の低い昔ながらの家や田畑が一帯に広がる。 「さすがにこの辺まで来ると全然雰囲気が違う。田舎って感じがやっぱりいいよな」  緑の青さが眩しく、縦に伸びる建物もない。電車に乗って一時間ちょっとで見違えるほどに風景は変わる。空がいつも以上に高く広く感じて清々しい。いまは仕事の利便性で大きな街に住んではいるけれど、自分にはこちらのほうが性に合う気がする。 「この辺り知ってるんですか」 「ん、実家が近いかな」  僕の答えにふと外へ視線を向ける藤堂。その視線の先にある一際背の高い鉄塔を僕が指差せば、藤堂は小さく首を傾げて振り返った。 「あの鉄塔の近く」  いつも実家へ帰る時にはこの電車に乗っているので、目印の鉄塔もすぐに目に入る。 「へぇ」 「ど田舎だけどな。昔は夏になるとそこら中、裸に裸足で駆けずり回ってる子供がたくさんいたよ」  いまでこそ路面がアスファルトに変わり、そんな光景は少ないけれど。それでもやはり田舎らしい田舎だと思う。利便性に慣れた都会の人には窮屈に感じるかもしれないけど、昔懐かしい雰囲気があって僕はいまも実家が好きだ。隠居するなら絶対にあそこにするとさえ思っている。 「夏休みにでもうち来るか? この辺、夏は涼しいからいつもこっちに帰ってくるんだ」 「え?」 「山も川もあって、陽が暮れるとみんな家に帰るような田舎だけどな」  そう言って僕が笑えば、藤堂は目を丸くしながらこちらをじっと見る。固まったように動かないその姿に目の前で手を振れば、やっと藤堂は我に返った。
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