休息

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「いいんですか?」 「藤堂が嫌じゃなければ」 「嫌じゃないです」  大きく首を左右に振る藤堂の姿に僕は思わず肩を震わせ笑ってしまう。時々、ふとした瞬間見せる藤堂の油断した表情が好きだ。 「だったら、どこかで予定を空けておけよ」  今年の夏は楽しみが一つ増えた。藤堂にも僕の田舎を気に入ってもらえたら嬉しいなと思う。夏祭りや花火大会なんかも色々あるけれど、どれか一つにでも予定が合って行けたらいいなと、いまから浮かれた気分になってしまった。 「あ、この辺を知ってるってことは行ったことありました?」 「ん? ああ、いや、まだ行ったことない。と言うか知らなかった」  毎年実家へ帰ってはいたが、実のところ近くに自分の好きな場所があったとは知らなかった。もし知っていたらそれこそ僕は入り浸るだろう。だからこそ家族の誰一人、僕にそのことを知らせなかったのかもしれない。僕が実家に帰る時にはなぜか家族が全員集合するので、単独行動すると嫌がられるのだ。 「まあ、ここ最近できたみたいですしね」  ほんの少し口を曲げた僕を見て、藤堂はなだめるようにやんわりと微笑みを浮かべた。  田舎の風景を見ながらさらに四十分ほど。電車からバスへ乗り換え、ようやく目的地に着いた。バスターミナルにゆっくりと入り、園内への入り口前でバスは停まる。やはり連休中ということもあって人は多いが、それでも街中の人混みよりもずっとマシだ。 「大丈夫か」  半ば寝ぼけた様子でバスを降りてくる藤堂を振り返れば、噛み締めた欠伸と共に小さく頷く。その仕草に僕は思わず笑ってしまった。ちょっとだけ歳相応な雰囲気が感じられて可愛い。 「朝早かったしな」  いまの時刻は九時半を少し回ったところだ。移動時間などを考えても、間違いなく今日は普段の起床時間よりかなり早かったはず、ましてや朝が弱い藤堂ならなおさらキツかっただろう。
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