休息

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「まあ、それなりに」  その証拠にそう口ごもる藤堂は電車からバスに乗り換えてすぐに舟をこぎ出した。ここへ到着するまでかなり深く寝入ったのか、人の肩を枕にぐっすりだった。最初はその重みに恥ずかしいやら嬉しいやらでドキドキとしっぱなしだったが、時間が経つにつれなんだか寝顔が可愛くて、小さな幸せを噛み締めてしまった。 「そういえばさっき近くに座ってた子たちに、降りる間際、微妙な反応されたんですけど。寝てる時に俺、寝言でも言いました?」 「いや、言ってないぞ。うーん、なんだろうなぁ」  バスに乗っている時に藤堂が寝ているのを、何度も振り返って見ている四人組の女の子たちは確かにいた。そのちらちらと向けられる視線は正直言うと気分のいいものではなかった。けれどなぜか彼女たちは僕を追い越して行く際に、満面の笑みで仲いいですねと言って通り過ぎて行った。あれは一体どういう意味だったんだろうか。 「端から見たらどう見えると思う?」  彼女たちもそうだけれど、ほかの人から見たら一緒にいる僕たちはどんな風に映るんだろうか。学校の中にいるとこんなことは思いもしないが、こうして二人で外へ出るとふとそんな疑問が胸をよぎる。 「え? 俺と佐樹さん?」 「ん、そう」  なんの脈絡もない僕の問いかけに藤堂は眠たげな眼差しを一変、目を丸くする。しばらく瞬きを繰り返してから、顎に手を置き僕をじっと見つめる。 「どうですかね。普通に友達か、先輩後輩くらいの間柄じゃないですか。俺も普段はあまり歳相応には見えないって言われるし、佐樹さんは自分で思っているよりずっと若く見えますよ」 「ふぅん」 「佐樹さんはもうちょっと自分に自信を持ってもいいんじゃないですか」  反応が薄い僕の様子に、藤堂は困ったように苦笑いを浮かべる。
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