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「親戚のおじさんとかじゃなくてよかった」
ぽつりと呟いた僕の言葉に藤堂は困ったように笑う。確かにこの十五年の差はどう足掻いても縮めることなどできないのだから、気にしても仕方がないとわかっているのだが。やはり周りから不釣り合いだと思われたりするのは嫌だなと思った。
「気にし過ぎです。佐樹さんは十分、可愛いですよ」
「可愛いは余計だ!」
「ほら、そんなことより行きますよ。せっかく早起きしたんだからゆっくりしたいでしょ?」
「あ、うん」
急に藤堂に腕を取られ、軽く引っ張られるように僕は歩き始めた。そして僕らは大きな門に出迎えられる。
それを見上げた僕は、この先の楽しみでどうしても自然と頬が緩んでしまう。動物園に来るなんて何年ぶりだろうか。随分と来ていなかった気がする。本当に久しぶり過ぎて、僕はその気持ちを隠しきれずにいた。
「佐樹さんがここまで動物園好きだったとは思わなかった」
「いまちょっと馬鹿にしたろ」
「してませんよ。可愛いって思っただけです」
目を細め笑った藤堂に何度もしつこいと文句を言えば、さらに楽しそうな表情を浮かべられてしまう。
遊園地より動物園――小さい頃からこっちのほうが好きだったようで、母親によく安上がりな子だと言われた。一日なにをするでもなくふらふらと園内を歩き、そこへ連れて行けば大概機嫌がよかったといまでも言われる。
「藤堂、動物好き?」
今更ながらにそう聞けば、藤堂に至極優しく微笑み返された。
「好きですね。佐樹さんと一緒で裏表なくてピュアだし、癒やされますよ」
「お前、さっきから一言余計だ」
朝からいままで何度となく囁かれる甘い言葉に、いい加減耐えられなくなってくる。言い方がさり気なくて余計にむず痒い気分になるのだ。嫌じゃないけど恥ずかしい。
「嘘じゃないのに」
ムッとして口を歪めた僕に対し、藤堂はほんの少し眉を寄せて小さく首を傾げる。けれどそんな表情は見なかったことにして、僕は入り口へと向かった。
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