休息

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 園内は長く乗り物に揺られただけのことはある。郊外ということもあって周りは見渡す限り緑の山。木々が新緑を芽吹いて清々しいほどだ。  三分の一が公園のようなスペースと遊歩道。動物たちも多目的スペースと同様、広々として悠々自適な様子が見ていてわかる。ガラスや柵の向こうでのんびりしているその姿を見れば、不思議とこちらまでゆっくりとした時間が流れた。  忙しない日常から隔離された空間。あちこちで上がる子供のはしゃぐ声に目を細めながら、俺は前を歩く背中を見つめる。  園内に入ったあとの彼はまるで童心に返ったかのような機嫌のよさだった。その姿を見ていると、いささか遠くはあったが来てよかったと本当に思う。 「まだ眠いか?」  俺の視線に気がついたのか、彼がふいにこちらを向いた。あまりにも心配そうな表情を浮かべるので、思わず笑ってしまう。 「なんで笑うんだよ。心配してるのに」 「すみません。大丈夫です」  不服そうに口を曲げたその顔がまた可愛くて、言ってるそばから笑ってしまった。こんな時まで可愛いなんて反則だと思う。俺にとってはこの清々しい緑よりも、ここにいる動物たちなんかよりも、ずっと目の前の彼のほうが一緒にいるだけで癒やされる。 「寝てる藤堂はあんな感じだったぞ」  笑っている俺に小さく息を吐き、彼はふいに立ち止まったガラスの向こうを指差した。 「俺、あんなに寝相は悪くないと思いますけど」  ピンと伸びた指の先にはすっかり仰向けになり、無防備に腹を曝しているホワイトタイガーがいた。 「無防備ってこと。寝顔が可愛かった」  柵にもたれながら振り向いた彼は、にやりと口の端を持ち上げ、からかいを含んだ少し意地の悪い目をする。
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