休息

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「でも藤堂って猫科っぽいからあながち嘘じゃない」 「猫……ですか?」 「ああ、でも犬とか、かな。ハスキーとかシュッとした顔立ちだし」  でも黒豹とか狼とかもいいなぁ、そう一人呟く姿を俺はいささか戸惑いがちに見つめた。本当に動物好きなんだなとしみじみ実感してしまったが、自分の世界に入ってしまう普段の癖が加わると、さらにその空気に近づけない感がある。 「そうだ、このあいだ思い出したんだけどさ。昔、実家にいた犬が三島にそっくりですごい可愛かったんだ」  満面の笑みで振り返った顔は可愛いと思ったが、そんなことを無邪気に言われると正直ちょっと面白くない。 「へぇ」 「藤堂……顔、怖いぞ」 「そうですか?」  相手は幼馴染みでまったくと言っていいほど心配ない相手だと言うのに、こんな嫉妬をしてしまう自分が情けない。いちいち細かいことを気にしていても仕方ないけど、やっぱりどんな小さなことでも不安は尽きない。 「佐樹さん、子供好き?」  ふいに彼の視線が流れたその先を見留めて、思わず呟いてしまう。先ほどから何度も子供連れの家族を振り返る、その姿を見ると気にせずにいられない。 「え、まあ、それなりに」  突然の質問に不思議そうな顔する彼は少し驚いているように見える。あの視線は無意識なのか、そう思い胸がざわついた。  俺といなければ、この人なら普通の家族を持てるのにと、そう思ってひどく胸が痛んだ。 「……そう、ですか」 「藤堂?」 「なんでもないです」  戸惑いがちに俺の顔を覗くその姿に、できる限りなにごともないよう笑う。少しまだ訝しげな表情だけれど、それは見ない振りをした。  この人と、一体いつまで一緒にいられるんだろう。いまが幸せだと思うほど、その先が怖くなる。 「なあ、藤堂」 「……なんですか?」  ぼんやりとしていた俺の袖を引き、彼は視線を動かす。
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