休息

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「あれって」  じっと一点を見つめたままその先を指差す彼に首を傾げると、急にそちらへ向かい歩き始めた。 「迷子じゃないか」 「え?」  その言葉に慌てて指先の向こうを見れば、人波を縫って歩く彼の姿が波の向こうへ消える。そしてそれを急いで追いかければ、柵の前にできた人垣の端でしゃがみ込む彼の姿を見つけた。  その傍には三、四歳程度の小さな子供の姿もあった。 「やっぱり迷子っぽい」  背後に立った俺を振り仰いだ彼の顔が困ったように歪む。 「園内放送も流れてないですから、はぐれて間もないんじゃないですか? 案外まだ気づいてないだけで近くにいるかも」 「そうか……ボク、お父さんかお母さんは?」  きょとんとした表情のまま彼を見つめる子供。あまり自分の置かれている状況を理解していないところを見ると、さほど時間が経っていない。 「あ、佐樹さんその子、女の子ですよ」 「えっ、嘘」  目を丸くして振り向いた彼に苦笑いを浮かべると、慌てて向き直ってじっと子供を見つめた。言いたいことはわかる。でも着ている物は男の子の物だが、かろうじて親の苦肉の策かピンクのリボンが頭に二つ結ばれていた。 「多分、家族が多くて気づいてないだけだと思います」 「え、ちょっ」  彼の隣に並びしゃがんだ俺に、子供は突然彼の手を払って突進して来る。慌ててそれを受け止めればなぜか思いきり抱きつかれた。 「このまま少し歩きます?」  腕にぶら下がった小さな重みに軽く息を吐いて立ち上がると、ふいに彼が不機嫌そうな顔をした。 「子供に懐かれないのがそんなにショック?」  あからさまなその表情に笑いながら、子供を持ち上げ抱え直せば、ますます口を曲げられた。
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