休息

14/56
前へ
/1117ページ
次へ
「別に」  ふて腐れたような顔をして立ち上がった彼に首を傾げたら、急に子供の頬をつついて目を細めた。 「藤堂はやらないぞ」 「やぁ! なっちゃんのぉ」 「じゃない!」  いやいやと腕にしがみつく子供と彼とのやり取りに、思わず顔が熱くなる。まさか子供に懐かれないと言うことではなく、俺に子供が懐いていることでやきもちを妬いているとは思いもよらなかった。 「佐樹さん、子供相手に大人げないですよ」 「うるさい! 子供の思い込みは怖いんだからな」  やきもちを妬かれた嬉しさを隠しながら、からかうように話しかければ、彼はムッと口を引き結んで不機嫌な表情を浮かべる。けれどその顔がたまらなく可愛くて仕方がない。彼はすぐに俺の心をかき乱してくれる。 「俺は佐樹さんが一番好きだよ」  意地の悪さをたっぷりと含めて耳元に唇を寄せ、小さな声でそう囁けば火がついたように彼の顔が赤くなる。 「しっ、知ってる。……そうじゃなかったら」 「じゃなかったら?」  この戸惑ったような焦りを感じたような彼の反応が、俺に優越感を与えてくれるからたまらない。普段は押し込めている加虐心に火をつけられるような感じだ。かといって彼に対しては、そんなにひどい仕打ちをしたいわけではなく、少し、ほんの少しの意地悪がしたくなるのだ。 「……泣く」  しかしそう言って、いままさに泣きそうな顔をされたら、抱きしめてキスをしたくて仕方がなくなる。けれどそれは理性でグッと堪えて、俺はその気持ちを吐き出すように大きなため息をついた。仕掛けたつもりが完全にしてやられてしまった。  無自覚の無意識は恐ろしい。
/1117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1469人が本棚に入れています
本棚に追加