休息

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「おにぃたん。ダメー! なっちゃんとけっこんしゅゆの!」 「え?」  暴れ出した理由に、思わずあ然としてしまった。この小さな彼女は、俺と彼とのあいだにあるものを感じ取ったのだろうか。 「……」  急に火がついたように泣き出した彼女と、呆れたように動きを止めた彼とのあいだに挟まれれば、なんとも言いがたい雰囲気が広がる。次第に周りから不躾な視線が向けられた。 「だから子供の思い込みは怖いって言っただろ」  大きなため息と共にそう呟く彼と互いに顔を見合わせ、さすがにこのままではいられないと急いでその場をあとにした。  警報機のような彼女を抱えて足早に園内を回り歩けば、ほどなく彼女の家族と行き当たった。その家族は予想以上の大家族で、一人、二人いなくなっても気づかないのは頷けた。今時、三世帯でしかも十五人を遥かに凌ぐ家族は珍しい。 「すいません! うちの子ほんと面食いなので。ほら、お兄さんから離れなさい」  よくわからない謝罪を受けながら、彼女を家族に引き渡そうとするものの、なかなか剥がれない。ぎゃんぎゃんと泣き喚く彼女に家族は皆あたふたとしている。 「本当にすいません!」 「……」  見知らぬ男の腕にすがりつき、泣き叫んで張り付いて剥がれないそんな娘を無理矢理に引き剥がして、彼女の両親は深々と何度も頭を下げて去って行った。  子供の泣き声で耳がキーンとした。やっとのことで身の回りが静かになり、どっと肩の力が抜ける。 「疲れた」 「お疲れさん。それにしてもなんで家族が多いって思ったんだ?」  大家族の後ろ姿を見つめながら彼はぽつりと呟いた。その言葉に視線を落とせば、ふいに顔を上げた彼の視線とぶつかる。
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