休息

17/56
前へ
/1117ページ
次へ
「なんとなく、かな。物怖じしない感じとか、着てるものとかですかね」 「ふぅん」  小さくそう相槌を打って、再び視線を前へ向けるその横顔を俺はじっと見つめる。またその顔かと、切なくなる。憧れを含んだような眼差しが辛い。 「三歳ってあんなに大きくなるんだな」 「そうですね。言葉もかなり話すようになるし、走り回るし、一番手がかかって大変な時期じゃないですか」 「そうなんだ」  どことなく曖昧な返事と、先ほどまでとは違う遠くを見るような彼の眼差しに、胸の辺りがざわりとする。今日、何度目かもわからない胸に張り付く重苦しさを感じた。 「子供、欲しくなりました?」 「そんなんじゃない」 「佐樹さんの子供だったら可愛いでしょうね」  困惑した表情を浮かべる彼に微笑んで見せれば、なぜか不機嫌そうに目を細め口を曲げられた。 「馬鹿」 「え?」  ぽつりと彼が呟いたその意味がわからなくて首を傾げたら、また裾を強く握り締められ、さらには俺を引き寄せるように引っ張られた。 「そういえば、佐樹さんはお姉さんだけですか?」  先ほどまでとは少し違う不機嫌さの原因がわからず、なにか会話はないかと俺は頭を巡らす。すると彼は俺の質問に振り向いた。 「え、ああ。うちは上に姉さん二人で、一番上は旦那さんいるけど子供はまだだし、家族は多くはないな」 「お姉さん、二人だったんですね」 「藤堂は?」 「俺は一人なんで、兄弟とか想像がつかないです」  こちらを振り仰ぐその期待のこもった視線に戸惑いながらも答えれば、そうかとまた呟いて彼は前を向いた。その横顔にほんの少し笑みが浮かぶ。 「ちょっとは機嫌を直してくれました?」 「別に、機嫌悪いわけじゃ」  ムッと口を尖らせたいつもと変わらないその表情に、なぜかほっとしてしまう。
/1117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1469人が本棚に入れています
本棚に追加