休息

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「……ただ、なんかこうモヤモヤして、苛々して、少し気分が落ち着かないだけだ」  眉間にしわを寄せてそう呟く彼は、相変わらず自分の感情整理は苦手なようで、聞いてるこっちが恥ずかしくなる。よく俺に恥ずかしいことを言うなと言っているけれど、無意識な彼のほうがよっぽど照れくさい。 「ほんと佐樹さんは天然だな」 「は? どこが」 「全部」  真っ正直で裏表がなくて、素直で優しくて可愛い人。そんな人にやきもちを妬かれたりするのがこの上なく優越だ。重苦しく心に張り付いていたものが、ほんの少し剥がれ落ちたような気がした。 「そうやってまた、お前はすぐ人のこと馬鹿にする」 「全然してませんよ。というより俺は佐樹さん馬鹿にしたことないけど」  不服そうに眉を寄せ小さく唸る彼に、笑って首を傾げればなぜか何度も背中を叩かれた。 「……佐樹さん」 「今度はなんだよ」 「雨、降ってきましたね」  ぽつりと頬に落ちた雫に気づき空を見上げると、生温い風が吹き抜け、次第に降り注ぐ雫の数が増えていく。 「なんだ、天気予報もあながち間違いじゃなかったな」 「さっきまで晴れてたのに、最近の天気ってわからないですよね」  突然降り出した雨に、二人で空を見上げていると、周りは慌ただしく屋根を求めて移動し始める。青空だった空はいつの間にか雲に覆われて、次第にどんよりとした雨雲に変わった。 「これかなり来るぞ」 「え?」  独り言のような呟きに振り向くと、彼は急に俺の腕を取って走り出した。そのあとを追いかけるかのように雨足は強くなっていく。
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