休息

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 強くなる雨足。  突然走り出した僕に、背後から戸惑いの気配を感じた。しかしそれには応えず、僕は藤堂の腕を掴んだまま裏門に当たる出入り口へと急いだ。 「佐樹さん?」 「話はあと」  ほんのわずか引かれた手を振り返るが、それでもなおスピードは緩めない。だが裏門まであと数メートルのところで、急に空からバケツをひっくり返したような雨が落ちてきた。  一瞬で濡れ鼠になる。 「大丈夫ですか?」 「急に来たな」  屋根のある場所へ入り、土砂降りになった空を見上げる。暗い空から降り注ぐ雨で、地面にはいくつも水たまりができて、小川のように流れている場所もある。 「佐樹さん風邪引きますよ」  屋根の外へ身を乗り出していると、ふいに後ろへ身体を引かれた。そして藤堂は僕の髪から滴り落ちる雫をハンカチで押さえ拭う。 「とりあえず出よう」 「いいんですか?」 「多分これ、しばらく止まないから。車あるうちに移動してしまったほうがいい」  園内から外へ出ようとした僕に、藤堂はほんの少し眉を寄せた。けれど、僕はそれに首を振って外のタクシー乗り場を指差す。  短い列ができ始めているその列は、おそらくあと五分か十分で長蛇になるはずだ。 「藤堂は明日朝早い?」 「……いえ、明日は夕方からなので早くはないですけど」 「じゃあ、大丈夫か」  不思議そうに目を瞬かせる藤堂を尻目に、僕は独り言を呟きながら携帯電話を取り出した。そしてタクシーの列に並ぶべく足早に歩き始める。藤堂は目を丸くしたままそんな僕を見つめた。
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