休息

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 物腰も柔らかく、真面目で気が利く藤堂は、間違いなくうちの女性陣が好きなタイプだ。しかも顔もよければなおさらのこと、色めき立つに違いない。 「どうしたんですか、ため息をついたりして」 「なんでもない……脱いで」 「は?」  大きく息を吐いた途端、なんの脈絡もなく発した僕の言葉に藤堂は目を見開く。そしてその驚いた表情のまま、固まった。僕はその表情を見て首を傾げたが、やや間を置いてやっと自分が言った言葉の意味を理解した。いまのは捉え方によっては誤解を招く。 「あっ、いやそうじゃなくて、乾かすから、服」 「ああ、すみません」  慌てて首を左右に振れば、藤堂はほっと息を吐く。そんな様子にこちらが恥ずかしくなる。でもいきなりあんなこと言われて戸惑わないはずはないだろう。なんだか申し訳ない気分になった。 「これ、乾くまでの着替え。うちにあるお義兄さんのなんだけど……大きいか? 丈も足りるか?」  姉の旦那さんは背の高さは藤堂とさほど変わらないが、体型がだいぶ違う。すらりとした容姿の藤堂に対して、姉の旦那さんはどちらかと言えば体育会系な容姿。  Tシャツは問題ないとして、大いに問題あるのはその下だ。お義兄さんには申し訳ないが、足が長い藤堂にそれが足りるのかが心配だ。 「大丈夫じゃないですか、これウエストはひもがついてるし、七分丈みたいです」 「そりゃよかった……って、まだ脱ぐな!」  いつの間にかシャツを脱いでいた藤堂が、その下のタンクトップに手をかけていた。そしてそれを目にした途端、なぜか僕はその手を制して後ろへ一歩飛び退いた。  不思議そうに首を傾げる藤堂に、僕は引きつった笑みを浮かべる。やたらと動悸がするのはなぜだろう。
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