休息

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 おかしい。  三十数年の人生で男の裸は腐るほど見てきたはずなのに、以前も同じようなことがあったが、なぜだか藤堂には激しく羞恥を感じてしまう。このリアクションはやっぱりおかしい気がする。なんでこんなに動揺してるんだ。意識し過ぎているんだろうか。って言うかなにを意識するって言うんだ。 「佐樹さん? 大丈夫?」  ひらひらと目の前で振られる手に気づき顔を上げると、藤堂が心配そうな表情を浮かべている。そしてその頬に張り付いた毛先に僕は我に返った。このままでは雨で濡れた身体が冷えて風邪を引かせてしまう。 「悪い! 髪もちゃんと乾かせよ。脱いだ服はそっちの籠に入れて、着替えたらここを出てすぐ右手の扉がリビングだから、そこに来い」  自分もすぐ行くからと矢継ぎ早にまくし立て、僕は慌ただしく脱衣場から飛び出した。 「あっつ」  勢いよく閉めた扉に背を預けて顔を手うちわで扇ぐ。顔に熱が集中して激しく熱かった。  ちらりと見えた藤堂の身体は、筋肉質ではなかったけれど無駄な肉はまったくついていなくて、薄らと割れた腹筋が綺麗で、すごく引き締まっていた。あの身体にいつも抱きしめられているのかと、そこまで考えて頭から湯気が出そうなくらい顔が上気した。やたらと心臓の音も早くて、身悶えてしまう。藤堂の裸を見ただけでこんなになっている自分は、やはりおかしいと思う。それにしてもほかの人となにが違うんだろうか。  いや、いまはそんなことを考えている場合じゃない、とりあえず早く着替えしまおう。藤堂を一人にしておくのは危険過ぎる。
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