告白

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 僕はどこにでもいるような、ごくごく普通の高校教師だ。  けれどそんな自分にごくごく普通ではない、思いの寄らない言葉が投げかけられた。そしてその言葉に思わず口を開けたまま、僕は時間が止まったように身を固めてしまった。  視線の先で彼は、間抜けた僕を見て笑うでも困惑するでもなく。ただじっと数分前と変わらぬ表情でこちらを見ている。 「い、いま、なんて?」  自分だけが取り乱しているその状況に声はどもり上擦った。暑くもないのになぜか滲んできた額の汗をさり気なく拭い、再び僕はオウムのように先ほどと同じ言葉を繰り返した。  さすがにその情けなくうろたえた様子を哀れに思ったのか。彼――藤堂優哉(とうどうゆうや)はわずかに眉尻を下げて顔を歪めた。そして藤堂は少し躊躇いがちに口を噛んだが、両拳をぎゅっと握り一歩前へと足を踏み出した。  狭い室内。椅子に腰かけた僕と目の前に立つ藤堂の距離は一メートルもない。無意識に床を蹴り椅子を後退させると、静かな部屋の中に床を擦るキャスターが、錆びついた嫌な音を響かせる。
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