休息

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「俺は意外と一途だぜ。一回試してみる?」 「駄目駄目。明良くんは男友達にしておきたいタイプ。それにどっちかって言えば、あたしは優哉くんみたいなタイプが好きかな」  そう言って佳奈姉が藤堂に向き直れば、一瞬苦笑いを浮かべた藤堂が曖昧に微笑む。どう対応していいか悩んでいるような雰囲気だ。すっかり佳奈姉に気に入られた様子の藤堂。彼が悪いわけではないけれど、またモヤモヤとした気持ちが湧き上がってくる。自分の姉に嫉妬してどうすると言いたいが、やはり藤堂は自分のものなんだから手を出すなとも言いたくなる。 「そうだ佐樹さん」  にこにこと笑みを浮かべたまま、じっと目をそらさない佳奈姉の視線から逃れるように、藤堂はふいにこちらを振り向いた。 「……なに」 「あ、すみません」  モヤモヤが心の中でくすぶっていたので、急に声をかけられて反射的に思いのほか冷たい返事を藤堂にしてしまった。それなのになぜか藤堂に謝られてしまい、思わず僕は首を傾げる。 「さっちゃんがそんな怖い顔をしてるから、優哉くんびっくりしちゃったでしょ」 「え?」  いつの間にか席を立っていた母が、小さく笑って湯気立つマグカップを僕の前に置いた。  そうか確かにいきなりなんの前触れもなく、不機嫌になられてもわけがわからなくて戸惑わせるだけだ。申し訳なく思い藤堂のTシャツの裾を引いたら、少し驚いた表情を見せたが、すぐにふっと微笑みを浮かべてくれた。
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