休息

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「あの時はマジで悪かったって、今度埋め合わせするから」 「次にやったらお前とは絶対にもう遊ばないからな。早く相手作れよ」  ジトリと睨み続ける僕に明良の額が汗をかく。両手を合わせて頭を下げるその姿にため息をつくと、僕らのやり取りをじっと見ていたらしい母は不思議そうに首を傾げた。 「じゃあ優哉くんか明良くんのどちらかがさっちゃんの部屋でいいのかしら」 「優哉が佐樹の部屋でいいんじゃねぇの。元々今日は二人だったんだし」 「いえ、俺は」  母の言葉に明良は藤堂に視線を向けるが、二人の言葉を遮り藤堂は慌てて首を振る。その反応に僕は思わず目を細めた。  なぜそこで拒否をする。僕と一緒にいるより一人のほうがいいと言うのかと、少し苛ついてしまった。駄目だ、色んなことがモヤモヤした状況で物事を考えると、悪い方向へ思考が流れていってしまう。 「まあまあ」  ムッと口を引き結んでいた僕の背中をなだめるように軽く叩き、明良が楽しげに笑う。目の前では藤堂が困ったような表情を浮かべている。 「その辺はあとで決めようぜ」  その声にまた不満をあらわに振り返れば、再びまあまあと呟かれる。その曖昧な返事の意味がわからないのは僕だけなのか、そう思うとまた苛々が募ってしまうではないか。そんなに僕は短気なほうではないはずなのに、なんでこんなに気持ちが乱れているんだろう。 「佐樹は男心がわかってないなぁ」  独り言のように小さく呟く明良に首を傾げると、藤堂が苦笑いを浮かべた。人の頭の上を通り越して、二人で無言の会話はしないで欲しい。
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