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藤堂の傍へ行くが、なにか考え事でもしているのか僕の気配に気づいていないようだった。こちらを見ながらにやりと笑う明良。そしてそれに比例するように藤堂はどこか落ち着かない様子だ。
「こういうのが鈍いやつでよかったなぁ」
俯いたまま一向に顔を上げようとしない藤堂に、ますます明良は楽しげに笑う。明良がなんのことを言っているのかさっぱりわからない。先ほどの誰がどこで寝るかということだろうか?
大体、なぜ藤堂は僕と一緒にいることを嫌がるんだろうか。これが明良の言う僕の鈍いところなのか。
「藤堂?」
下を向いた顔を覗き込むように身体を傾ければ、やっと僕の存在に気づいたのか、藤堂がゆるりと顔を上げた。そして傍にいた僕に驚いた様子を見せる。
「どうした?」
「いえ、なんでもないです」
ため息を吐きながらこちらを見上げる、その表情に僕は目を細めた。ぎこちない笑みがますます怪しい。心がここにあらずといった感じでちっともなんでもないようには見えない。
「佐樹さんは、わからないままでいてくれたほうがいいです」
もの言いたげな僕の視線にほんの少し肩をすくめた藤堂は、言葉を先回りするかのようにやんわりと見えない線を引く。その言葉と拒絶に似た感覚に少し胸が痛んだ。
「明良は知ってても?」
どうして明良にわかって僕にわからないんだろう。それがひどく悲しくなる。
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