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「そうですね、そのうち」
煮え切らない曖昧な返事――そのうちと言って、一体いつ話をしてくれるのか。この調子ではこのまま曖昧に濁してずっとなにも言ってくれない気がする。
「そのうちっていつ」
そんな藤堂の反応に、また僕はいつもの苛々を募らせてしまった。誰だって口にしたくないことや、人に知られたくないことはたくさんある、というのは頭ではわかっているが、胸の内側から込み上がる感情はどうしても抑えられない。もう自分の感情が自分のものではない気がしておかしくなりそうだ。
「なんで明良と仲よくなってんだよ」
「なんとなく、ですかね」
半ば八つ当たりに近い僕の問いに藤堂は笑って答えをはぐらかした。そしてそんな答えに思いきり顔をしかめれば、さらに苦笑いを浮かべて藤堂は僕の手をなだめるように握った。
「苛々する」
その手は温かかったけれど、心でくすぶる気持ちはやはり拭えなかった。そしてぽつりと呟いた僕の言葉に藤堂は目を見開いた。
「佐樹、さん?」
小さく僕の名前を呼んで、藤堂は焦ったように瞳の奥を揺らした。その不安げな視線に胸を鷲掴まれたような気分になる。やはり僕は彼のこの顔には弱い。どことなく落ち着きをなくした藤堂の手を解くと、僕は手のひらを合わせるように繋ぎ直す。
そのほんのわずかな瞬間――離れそうになった僕の手を、藤堂の指先は躊躇いがちに追いかけてきた。そして繋ぎ合わせた手とその指先に込められた力に、どうしようもなく安堵して僕は頬が緩んだ。
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