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「お前ら砂吐く、人前でいちゃついてんじゃねぇよ。独り身にどんな仕打ちだよ」
「吐きたきゃ吐け」
投げやりなほど素っ気なくそう返せば、明良は目を丸くしまじまじと僕を見つめる。その視線はいささか居心地の悪いものだったけれど、繋ぎ合わせた藤堂の手を離す気にはなれなかった。
「佐樹、お前さ。こないだ会った時に相当だと思ったけど、どんだけそいつにメロメロなんだよ。おいおいダーリンすげぇな」
僕と藤堂を見比べ長く大きなため息を吐き出すと、明良はオープンキッチンへ足を向けておもむろに換気扇を回す。そして胸ポケットから抜き出した煙草をくわえて、肩をすくめた。
明良が言っているのは初めて藤堂のことを話した時のことだろう。そんなに相当と言われるほど、すでにあの時の僕は藤堂のことを想っていたんだろうか。いまはその時よりもずっと想いが強過ぎて、迷いだらけだったあの時の気持ちがどれほどだったかよくわからない。でも間違いなくあの時、すでに藤堂には惹かれていたんだということだけはわかる。
「化石が生き返るってのは、ある意味奇跡だな」
「悪かったな化石で」
このあいだから枯れてるだの化石だの言いたい放題な明良に顔をしかめれば、盛大に笑い飛ばされる。
けれど日に日に藤堂に対する想いが強くなっていて、独占欲の塊が胸を占めていることは自分でもよくわかってはいる。藤堂のことが見えないのも、わからないのも嫌だなんて気持ちはひどく醜い。そう頭でわかっていても最近は気持ちが暴走してしまうのだ。本当に明良の言うように、化石が生き返った、というのはあながち間違いではないかもしれないとさえ思う。
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