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「なんか重いよな」
でもどうしても、藤堂だけは離したくない。いまそれは自分にとって絶対に耐えがたいことのような気がする。自分の気持ちがひどく重たく感じた。こんな感情、いままでなかったはずなのに、いままでとなにが違うのだろう。
「いいんじゃねぇの。お前、昔から欲しがらないしな。それくらいの我がまま、言っとけば」
ゆらりと立ち昇った紫煙の向こうで、明良はゆるりと笑う。先ほどまでのからかいを含んだ笑みではなく、至極優しい微笑み。
明良にそんな風に笑われると調子が狂う。いつも人をからかったり小馬鹿にしたりするのが明良だから、優しくされるのはむず痒くなってしまう。
「……布団、出してくる」
どことなく居心地悪さを感じて一歩後ろへ下がると、繋いでいた藤堂の手が離れていく。その手の温もりがなくなることがひどく名残惜しく思えたが、僕を見上げて小さく笑った藤堂に不思議と安堵した。藤堂が優しく微笑んでくれるだけで、僕の中のモヤモヤはすっと晴れていくような気分になる。
僕の心をかき乱すのも、癒やすのも藤堂しかいない。
「俺も手伝いましょうか?」
「いい、すぐ終わるから、ここで待ってろ」
首を振る僕に目を細めて笑うと、藤堂は離れた手を指先で持ち上げ、いつものようにその先に口づけた。その優しい行為に胸がほんのり温かくなった。なにかあるたびにこうして指先に口づけられると、ああ、いま藤堂に想われているんだ。そんな不思議な安堵感が胸に広がる。だからこの行為には、思っている以上に深い想いがあるような気がしている。
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