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――月島渉、彼のことも実は見知っていた。
あずみが持ってきた写真展の案内状に書かれた名前ですぐに気づいた。あの日、顔を見てさらにはっきりと思い出したが、向こうはまったくこちらに気づいた様子がなかったので、ある意味、彼の記憶力のなさをありがたいとさえ思っていた。
BAR Rabbitに顔を出していた頃の知り合いなど、いま現れてもらってもなにもいいことはない。ましてやあの人がそれを知って楽しいことなど、間違いなく一つもない。以前といまの自分ではあまりにも違い過ぎる。
「まあ、お前だいぶ雰囲気が変わったしな、あいつ馬鹿だから気づかないかもな。眼鏡なんてもんはしてなかったし、もうちょい髪も長かったし。つうか、顔付きが全然違う」
明良の苦笑いに入学直前を思い出した。
高校デビューはよく聞くが、マイナーチェンジにもほどがあると、あずみにひどく呆れられた。しかし当時はあの人の目に触れないよう、目立たず三年間ただ近くにいられればいいと思っていたので、さして気にはしていなかった。けれどいまと以前ではそんなに見た目が違うものだろうか。
「特に佐樹といる時はかなり顕著だぜ。お前って笑えんだな。あん時は氷像が動いてんのかと思うくらいひどかったのによ」
「……どんな例えですか」
急に声を上げて笑い出した明良に目を細めると、その顔だよ、とさらに笑い飛ばされる。確かにあの当時は感情表現が豊かだったかと聞かれれば否と言えるが、そこまでひどいとは思っていなかった。
「頭の悪そうな彼氏と別れてから来なくなったよな」
「そういう記憶は消去してもらっていいですか」
あの人にこうして出会う前の自分の過去は、正直抹消してもいいくらいになかったことにしたい。
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