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「西岡先生、あなたが好きです」
優しい低音が先ほどの耳に障る音をかき消した。綺麗でよく通る声だと思った。きっと彼にそう告げられれば、大抵の子たちは頬を赤らめ頷いてしまうだろうとさえ思う。
だが――残念ながら僕は同性に恋情を覚えたことは一度もない。
「い、いや、気持ちは嬉しいけど……僕は」
「先生、いま答えを出さないでください。少しだけでいいから考えてもらえませんか。そのあとに断られるのなら受け入れます」
僕の返事は間髪入れずに遮られた。
こういうことをあまりずるずると引きずりたくないほうなのだが、藤堂の真剣な面持ちに言葉が詰まる。
「え? ああ、うーん、いやけど」
「男に告白されるなんて、気分のいいものじゃないでしょうし、断られるのはわかっていました。でもほんの少しでもいいので、考えてもらえませんか」
また一歩踏み込まれ、そらしかけた視線を正面に向き直された。どうにも彼の瞳は優しげに見えて力強い。
「なんで? 藤堂なら女の子にも普通にモテるだろ? 僕なんかじゃなくても同年代で好きな子はいないのか」
そう疑問を口にすれば、藤堂の瞳がわずかに揺れた。
「昔から、女性に興味が湧かないんですよ」
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