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一人になった空間で僕はぼんやりと窓の外を眺めていた。
二階の窓から見える景色の中では、わずかに残るピンクの花がゆらゆらと風に吹かれ揺れていた。もうすでにほとんどが葉桜になりかけているが、それでも柔らかい色合いは見ていて心が和むものだ。しかしいつもならそうして心和ます綺麗な景色も、いまはあまり目に入らない。僕の頭の中は正直言ってそれどころではなかった。
校舎の隅にあるこの部屋に届くほど賑やかな放課後の喧騒が、ほんの少し開いた窓の隙間から入り込んでくる。けれどなぜかいまはそれさえもうるさいと感じない。片肘をつきながら、右手に持ったペンが延々と回され続けてどのくらい経っただろうか。いまだに頭の中がショートしているようだ。
「だって、まさかね」
小さな呟きがため息と共に漏れた。真剣な藤堂の顔が何度も頭の片隅によぎる。
「最期に彼女と別れてどのくらい経ったっけ」
その年数を頭でぼんやり数えてみたが、恋愛偏差値はだいぶ下がっている気がする。目下進まないペンを置き、もやもやを誤魔化すように髪を両手でかき乱すと、僕は再び大きなため息をつく。
「藤堂優哉……どのクラスだ」
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