入れ替わり

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 今まで自分が感じてきた気持ち良さはない。身体を内側から歯の鋭い獣に食い荒らされるような激痛が繰り返し襲ってくる。 「おぐっ!」「ぇげえ!」「ふぉあぅ!」  優輝に叩きつけられるように身体を揺さぶられる優美は全身に脂ぎった汗を浮かばせていた。  目は虚ろになり、口からは必死に呼吸を継続しようと詰まったような荒い息の音が鳴る。 「優美さん、僕はね、女の子になりたかったの!」  意識が飛びかけていた優美に、どこからか『女の子』の声が聞こえてきた。無論、ここにいる女性は優美だけ。終焉と限界の時は近い。 「やっと、女の子になれるわ。あなた、私にそっくりなんだもの!」  全ての判断能力を失った優美には『女の子』がもう一人いるとしかわからない。  そのもう一人とは『自分』だ。『優美』がそこにいる。 「だからね、優美さん、『私』があなたになって生きて・・・・、あげるわっ!」  最期の瞬間、優美は優輝の希望を含めた殺意を身体で感じた。  限界を迎えても死に抵抗をしようと、強く目を閉じ、歯を食いしばった。  だが、無駄だった。 「ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっっっっ!!!!!」  絶命を迎えた優美は美女の顔が崩れんばかりに目を大きく開き、喉の奥が見えるくらいに口を大きく開いて粘り気のある泡を吐きながら断末魔を部屋中に響かせた。  そして、本物以上の優美はかつてのダメな『優美』に純白の精を放った。  『優美』は髪を乱し、涙を流した目を開いたまま、口から細かい粒の泡を放出しながらベッドの上で長く横たわっていた。隣には望むものを手に入れた事に微笑む優美が肘を立てた手に頭を載せて、うっとりとした熱っぽい瞳で眺めていた。  零時を回った。優美は身体を起こし、ベッドの脇に散らかる男物の服を着る。本心は嫌だったが、新しい自分を始めるには最後の大仕事をしなければいけない。  服を着終えると、布団と枕を除けて、ベッドのクッションを包むシーツの四方を引っ張り、女性の亡骸を梱包する。それが終わるとベッドから引きずりおろす。  階段では何度も鈍い音が聞こえたが気にはしない。片付けられていない台所を通り抜けると勝手口を開けて外に出る。image=513372249.jpg
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