入れ替わり

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 向かうのは裏手の山。布に包んだ優美の足にビニール紐を長めに結ぶと、暗黒の空間を『荷物』を引きずって進む。迷わずに歩けるのは木に夜光テープが貼られているから。学園長の私有地の山とはいえ、懐中電灯を持つと誰かに気付かれる恐れがある。それに気分転換に山を何度か歩いたのが役に立ったのは幸運だ。テープの反射を道しるべに行くと、目の前の足元が開けた場所に出た。ここも登山中に偶然発見した場所で、何らかの自然現象で地面がちょっとした渓谷みたいに大きく割れている。優輝は地獄の口のような闇の空間に白いシーツに包まれた塊を落とした。  滑り落ちて、もう見えなくなった。明後日には雨が降るので、この地割れも塞がるだろう。  帰り道は楽で、家の明かりを目指せばすぐだ。帰宅すると、まずは散らかったままの台所を片付ける。食べ残しは冷蔵庫に入れ、汚れた皿は食器洗い機に入れた。  それが終わると二階の廊下に脱ぎ散らかされた女性服を洗濯機に放り込む。続けて、今着ている男物の服も。全てを脱いだが風呂は汲まれてなかった。まあ、今は無性に疲れているので別にいい。代わりに、バーブの香る女性用ウェットティシュで身体を拭うと、洗濯機を動かして再び二階に行く。  優輝の部屋のクローゼットから一つの箱を出すと、それを持って優美の部屋に向かう。 中は、月明かりでベッドと家具がどこにあるか見えた。無論、何度片付けても出現するゴミもある。 部屋に入った優美は床のゴミに気を付けて鏡台の机に箱を置き、ベッドにその身を預けた。包まれるような心地良さにぐっすりと眠れた。
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