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車の音が聞こえた。学園長が帰ってきたようだ。優輝は慌てずにシャワーを止めた。
学園長は鍵を開けて中に入ると、「お~い、優美。帰ったぞ」と愛娘に帰宅の声をかけると玄関に腰掛けて靴を脱ぐ。
「はぁ~い、パパ」
背後からの声に学園長は振り返ると軽く驚く。シャワーを浴び終えたばかりの優美はバスタオル姿で父親を迎えた。頭を小さなタオルで拭き取りながら恥らうようすもなく「おかえりなさい」と言う。
「また、そんな格好して」
「ごめんなさい」
てへっ、と優美は笑う。
「優輝君は?」
学院長の言葉に、優美はタオルの重ね目に手を添えながら向かい合う。
「あら、学園に荷物を取りに行ったわよ」
「そうか。すれ違いか。今日は帰ってくるのか?」
優美は首を横に振る。
「ううん。寮に泊まるって。明日は映画を観てくるみたいだから遅くなるみたい」
「まいったな。頼まれてた問題集を持って帰ってきたのに・・・」
「私が渡しておくから心配しないで」
学園長から問題集を受け取ると、優美は服を着る為に階段へと足を運ぶ。
優輝の部屋の机に問題集を置いてから自分の部屋に入ると、タオルが落ちるのも構わずに大きく万歳をした。
(やったぁ! 親の学園長すらわからない! 僕は優美さんとして生きていけるぞ!)
優美は下着と服を着ると、足早に下に降りる。学園長はリビングのソファでくつろいでいた。
「パパ、今日の夕飯は私が作るわね」
「えっ、優美が作るのか?」
「うん。大丈夫よ。優輝君から教わったから」
「そ、そうか」
不安になる学園長をよそに、優美は下ごしらえに入った。
夜のニュースが始まる時間に、テーブルにはかつてない手料理が並んだ。
チーズとワインを前菜に、クリームとマスタードで煮込んだ牛肉料理。セロリとタマネギをフードプロセッサーで細切れにしたスープ。フルーツカクテル缶を使ったカラフルなゼリー。
優美は平皿にご飯を盛ると、牛肉料理をあえてご飯にかけないように注いで父親の前に置いた。学園長はうれしい意味で予想を裏切った味に感動した。
「すごいな。本当に優美が作ったのか」
「そうよ」
「だとしたら、優輝君に感謝しなきゃダメだぞ」
「わかってるわ。だから、私はこれから色々頑張るわ」
「期待してるからな」
こうして、父親は娘との食事を楽しんで、今日という日は過ぎていった。
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