女子大生 優美

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 次の授業はアジア史。席は埋まっている。優美には面白い内容に溢れた講義なのでこれを選んだが、大半の女子は教授目当てで来ている。派遣されている教授は二十代半ば。博識でイケメンなら当然だろう。優美が開いている席を探して階段状の室内をうろついていると、最後列に近い辺りで一人の眼鏡をかけた三つ編みの女学生が「どうぞ」と隣の席に置いた鞄を床に置いて譲ってくれた。しかも、跳ね上げ式の椅子を抑えてくれる気配りの良さだ。優美は軽く礼をすると、その席に腰を下ろした。  参考書とバインダー式ノートを広げていると、隣の眼鏡の女学生が恐る恐る声をかけてきた。 「あの、先週と先々週の講義って、ノートにとってますか?」 「ええ。とってるわよ」 「じゃあ、あの・・・」 「貸してほしいの?」  眼鏡の娘は小さく頷く。優美は「良いわよ」というと、バインダーからその分のページを抜いて渡した。こっちが要求したわけでもないのに、その娘は交換条件に学生証を渡した。山本絵里奈、と学生証にあった。 「絵里奈さん、ね。学生証は預かるけど急がなくていいから」 「絵里奈、でいいです。さん付けは苦手なので」 「わかったわ。じゃあ、私も優美って呼んで」  女学生の友人となった二人はアジア史の授業が終わると、一緒にランチをした。木陰の下のベンチに座る二人の間には数パックのサンドウィッチと缶ジュースが置かれている。絵里奈は食べながら優美との話に花を咲かせる。 「優美って、本当に綺麗ね。同じ女の子でも憧れるわ」 「ありがとう。でもね、いい事ばかりじゃなかったの」 「そうなの?」  優美は揃えた脚の上に缶を持つ両手を置いて、空を眺める。 「小学校や中学の時、顔のかわいさで色んな女の子に妬まれてたの」 「いじめられてたの?」 「そうよ」  優美は絵里奈の方に顔を戻した。 「だから、私は家事と勉強で中身を鍛えたの。理想の女性になる為にね」 「じゃあ、沢山の男の人と付き合ってたのは?」 「女性の中身をちゃんと見てくれる人を探してたの。パパには今の話内緒よ」  優美はウィンクしながら口元に人差し指を立てた。  もちろん、この話は前の殺した優美の話題を避ける嘘だ。絵里奈には悪いが微塵も疑うことなく納得してくれた。だからか、この話の後、絵里奈からこう言われた。 「優美なら大丈夫だと思うけど、アジア史のあの派遣教授には気をつけてね」
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