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あっけないほど部屋はさっぱりしてる。机、棚とノートパソコン、大型コピー機、コーヒーメーカーは置いてあるものの、何か他の大学教授とは違う感じがする。
コピー機の周囲には段ボール箱が乱雑に積み上げられている。開かれたままの箱に目をやると、今日のアジア史の授業内容が書かれた紙が束で置いてある。しかし、見るからに状態が古い。
よく見ると、記されている名はあの派遣教授のものではない。姓名は同じでも下の名前が違う。手にとって見ると全部そうだ。もしかして、あの男は家族の誰かのを流用しているのか?
ふと、起動したままのノートパソコンには、女性が縄に拘束されている淫らな動画が静止されたままになっていた。あの派遣教授、一体何者なのだ?
「何をしている!?」
突然の声に優美は身を強ばらせた。戸口にあの男が立っている。相手の睨む冷たい目に、本能的な恐怖を感じた。派遣教授は大股で駆け寄るなり優美の手から紙の束をひったくり、パソコンを叩き付けるように閉じた。
「ここでは何も見なかった! いいな!」
男は威圧的な口調で優美に言った。しかし、優美は負けない。
「ここの資料、先生のじゃなかったわ。あなた何者なの?」
「職業は教授さ。けど、この資料は親父のさ。親父も教授でね」
「こんな事して! 親が悲しみますよ!」
「親父は知ってるさ。というより、親父がくれたのさ」
優美は愕然とした。派遣教授の男は気持ち良くしゃべる。
「親父は俺が仕事をしないから、名誉を守るために俺を見習いの教授という形で働かせているのさ。自分の資料を渡してね。いいもんだよ、何も知らない大学は給料をくれるからな」
「しかるべきところに訴えます!」
「じゃあ、俺は君を無断侵入と窃盗未遂で警察に通報する」
「盗みって、私は何も盗んでませんよ!」
「未遂だから盗んでなくていいのさ。そうだな、財布から金を盗もうとしたとでもしておくか。警察はどっちを信用すると思う?」
詐欺同然の地位を利用した罪の意識のない発言に、優美は冷たい恐怖を感じたが、ここで引き下がってはいけない。優美は伝えるべきこと言う。
「正直に言います。あなたの授業を受けている友達が怖がっているんです」
「ああ。あの眼鏡をかけた子だろ?」
名乗ってもいないのに、イケメンの教授は誰かを的中させた。歪んだイケメンの話は続く。
「別にいいさ。もう、興味もないよ」
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