女子大生 優美

8/9
前へ
/127ページ
次へ
 別にいい? 興味ない?  淡々と述べるその言葉に優美は怒りが芽生えた。 「それより、君が気に入ったよ。俺を満足させてくれるなら、『盗み』を黙っててあげるよ」  派遣教師は優美を壁に追い詰めると強引な口付けをした。ろくに歯を磨いてないのだろう、むかつく酸味が伝わる。その上、胸を握られた。人工胸だから感触はなくとも戦慄を覚えた優美は渾身の力で相手を押し退けるようにして逃げた。  男は追っては来なかったが、笑い声はしつこく廊下に響いた。  あんな人間が、嘘の地位を築いてやりたい放題やっているなんて・・・!  決めた。あのクズな人間を殺す事を。  優美は大学を出ると、バスで最寄りのデパートに向かった。服売り場では男用のズボン。調理用品の階ではお菓子を入れる赤と白のチェック柄の紙箱。地下の食品売り場では袋入りクッキーを買った。  それらの品を持った優美は身障者用のトイレに入った。この個室は男女共用で扉に鍵もかかる。優美は荷物台に買った物を置くとウィッグをとり、女物の服、コルセット、ブラジャー、人工胸を外し、最後にスカートを脱ぐと買ったばかりの男の服に着替えた。下はパンティを履いたままだが、ズボンだから問題はない。要は、優美から優輝になる必要があるのだ。『なる』とはおかしな言い方と思われるが、この者にとって『優輝』が偽りの姿で本来の姿は『優美』だからこの表現でいいのだ。  それにしても、男が女の服を買えば白い目で見られるのに、女が男の服を買っても疑いをもたれないとは不公平な世の中だ。  話を戻そう。着替え終わった優輝はウィッグと衣類を空になったデパートの袋に入れてデイバッグに押し込んだ。  次にクッキーの袋を開くと、紙箱に並べ置いた。家庭のとは似ても異なる工場生産のクッキーだが、こうすると面白いほど手作りに見える。  クッキーを並べ終えた優輝は化粧品入れのポーチから優美を殺すのに使った、毒液入り容器を出した。今回のは中身が赤い。その赤い液体を、ストロベリージャムで飾られたクッキーに数滴垂らした。この毒液は相手の意識を、生きる屍ようにさせる効果がある。  優輝はデパートを出ると、バスで再び大学に足を運んだ。優輝の姿で中に入るのは初めてだが、大学の学生と言うのは私服の赤の他人だらけなので誰も気にしない。  教員棟に来ると、あのろくでなしの派遣教授の部屋をノックした。生意気にも、「どうぞ」と中から声が聞こえた。
/127ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加