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扉を開けた優輝は堂々と入った。ろくでなし男は先程対面した優美と同一人物だとは思いもしない。
「何の用だ?」
絵に描いたような真面目な口調で問う男に、優輝はクッキーの入った箱を差し出した。
「これ、女の子から先生にって」
「女の子って、誰だ?」
優輝は自然的な笑顔で答える。
「僕も知らないんです。先生の授業を受けていると言ってましたけど」
「そうか」
ろくでなし男は、早速一枚食べた。毒液をトッピングしたクッキーだ。
「うん。うまい。よくできたクッキーだ」
満面の笑みで感想を述べた派遣教授に、優輝は冷たい目で悦んだ。
部屋を出た優輝は別の階の女子トイレに入った。個室で人工胸を当て、ブラジャーを着けた。下もズボンからスカートに穿き換え、ウィッグを被った。
本当は次の授業まで余裕があったが、あのろくでなしを滅っする喜びに興奮を覚えてしまい、それを覚ますのに多少の時間を要して少し遅刻してしまった。
この男が死んだのは三日後。正確には四日目になる深夜。
三日間、大学と友人に連絡を取らず行方不明となった。警察官がこの男を大きな橋の上で見つけた時は、足を引きずり、腕を垂らし、口を開けたまま虚ろな目で歩いていた。
警察官が声をかけると、この男は突然叫びだし、橋から飛び降りた。
鈍い音が響いたもの、深夜だったので闇の河に落ちた男がどうなったかはわからなかった。明るくなってから下流を調べて二日後に発見された。
その後の調べで、この男の父親は有名大学の教授だった。警察はこの男が教授用として使った部屋から父親が過去に作成いた資料を押収。
警察は過去の資料を優美の大学の授業に流用したのではないのかと問い詰めたが、父親であるその教授は「盗まれた物」と否認した。この父の大学教授が言っている事が正しいか否かはわからないが、そんなのはどうでもいい。
結果として、あの男の父親のいる大学と優美の大学では派遣教授の不正と問題動画の閲覧の発覚に大騒ぎになり、アジア史も別の教授を要請するようだ。
優美もいつも通りに大学の門から敷地内に入ると、絵里奈の姿が目に入った。隣には男の子がいて、腕を組んで歩いている。絵里奈はこっちに気付いた。
優美は彼女のこれからの幸福を願って、ウィンクとVサインをした。
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