代謝と代償

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 夜。アルバイトを終えた優美はハンドバッグを手にレストランから出た。交代の時間はバラバラなので女装した<優輝>が着替えていても心配はない。仮に誰か来ても、パンティに生じている小さな膨らみを見せないようにお尻の方を向けてればいい。  レストランを出てしばらく行くと、聞き覚えのある声で「ねえ」と呼ばれた。振り返る前から、相手が誰かわかっていた。予想通り、緑髪とピンク髪の二人だ。ごきげんに手を振りながら歩み寄ってくる。改めて服を見ると、どちらもズリ降ろしたズボンとおかしな英語の入ったシャツのぺアだ。この二人が自分に何をするかはわからないが、もし手を出してきたらどうするかは考えてある。 「やっ、またあったね」とピンク男が言ってきたので、優美も「奇遇ですね」とスマイルサービスで応対する。  緑男は「夕飯食べようと思って来たら、ちょうど会ったんだ」と陽気に語る。  嘘だ。優美を再度ナンパする為にレストランに来たのであって、たまたま外で鉢合わせしただけだ。こうなるとこの連中を<どうにか>しないと自分の今後に影響が出る。うまい話を作る事を考えていたが、その幸運の展開はピンク男から振り出してきた。 「家がすぐ近くにあるんだけど、一緒に何か食べない?」 「でも、そうすると家族に迷惑じゃないですか?」  あえて丁重に遠慮する優美に緑男がニコニコと言う。 「大丈夫。オレ達が買った家で、二人しかいないから」 「家を持ってるんですか?」 その言葉に優美は正直に驚いた。ピンク男が応える。 「ネット動画の収入で購入したんだ」 「ほら、こんな動画だよ」  そういうと、緑男はスマホの動画を再生させた。  内容は、高圧洗浄機の水を雑誌に当てて破壊力を試す、スケートボードで家の階段を降りる、湯を張った浴槽に高級な紅茶をぶち込む、大型洗濯機に瞬間接着剤を宙から放出して渦巻く水に流し込んでどうなるか、沢山の卵をボウルに入れるとレンジでどれが爆発しないかを確かめるという下劣な映像ばかりだ。もっとひどい物もあるがここで止めておこう。とにかく、目を疑うのは閲覧者の喜ぶマークが呆れるほどの多さだ。  一日一万になるかならないかの稼ぎで頑張る人達もいるのに、微塵の理性もない行為で苦労無く稼いで遊ぶ輩。スマイルサービスの優美はこの二人を滅するべく、家までついていく事にした。
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