代謝と代償

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「さっきの救急車だけど、近くに住んでいた男二人がおかしな格好で死んでたみたい」 「おかしい、って?」  優美は興味を持った口調で問う。 「一人が洗濯機の中で死んでて、もう一人はガレージに挟まれたらしいよ」 「何、それ?」 「ああ、実際に変な動画を投稿してて、近所ともトラブルになってたんだ。動画撮影での事故死だろ、って言う人が多かったよ」 「バカな人達ね」  他人事で言う優美だが、彼女はどんな『死亡状況』かを全て知っている。  昨晩の、あの後、優美はまだ生きている緑髪の男を一本のストローと一緒に大型洗濯機の中に座らせる形で放り込むと蓋をして、満水と高速洗浄の設定をして動かした。  もう一人の、先に死んでいたピンク髪の男はうつ伏せにスケートボードに乗せて、ガレージの自動式シャッターで首を挟ませておいた。本来、自動シャッターには安全センサーがあるのだが、それをきちんと外しておいたので、そのまま首を折り潰された。  先に語ると、緑男は呼吸用にストローを持って、服を着たまま洗濯機で洗濯をしていたら溺死。ピンク男は横になって乗ったスケートボードでシャッターの下をギリギリ通過してたら、運悪く挟まれた。  まあ、つまり、収益目的の暴走的な動画撮影の練習をしてたら命を落とした、と想像の結論が出た。もちろん、検死はされたが優輝の作った毒物の反応は一切出なかった。  自分の思い描いた通りに二人が死んだので、優美は晴れ晴れとした気持ちで帰路に着いた。  電車を降りると駅を出て、通い慣れた商店街を歩いていると、自分が優美になった日に食事をした四十代の女性店長が営む、レトロなコーヒーショップの前にきた。光沢のある木の扉にアルバイト募集の張り紙がしてある。十代から二十代の女性限定で、制服はかわいいメイド風の手描きの絵が載せられている。  前に店に入った際に軽く観察してたが、店内は忙しくても静かで、礼儀正しい客が来る。願っても無いチャンスなので、ここで新しく働いてみよう。  扉をくぐると、カップを磨いていた女性店長は感激して採用してくれた。
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