理想の姿

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理想の姿

 朝。優美は一糸纏わぬ身体を起こすと、気持ちよく腕を大きく伸ばした。  朝日が眩しい。これからの自分の新しい人生が始まるのだ。まずは『自分の部屋』を大きく見まわした。  昨日、箱を置いた鏡台。金属製のアーチ状の脚で支える板の上にアーム式の電気スタンドが備わった勉強机。車輪付き回転イス。窓に近いソファにはペンギンや羊、うさぎのぬいぐるみ。床にはカーペット。高質な木を使った大きなクローゼット。  優美はまず鏡台の小さなイスに腰掛けると、鏡横の化粧品入れに手を伸ばす。そこにある専用器具を使って、眉毛とまつげを整える。香り付きの保湿液を肌に染み込ませたら、ディップを唇に塗る。  ふと、化粧箱の蓋の小さな内ポケットに挟まれている写真つきの葉書が入っているのに気付いた。眼鏡を掛けた男とモトクロスバイクが写っている。  <世界大会に行ってきます>と書いてある。  これが優美の言ってたバイクレーサーになった元・同級生か。太っていた時の姿はわからないが、感じの良い青年に見えない事もない。何かの情報源になるかもしれないので葉書は捨てずにとっておこう。  化粧箱を閉じるとクローゼットに歩み寄り、一番下の引き出しを開けた。予想通り、下着が入っていた。綺麗に畳まれている。『前』の優美はこういうのはしっかりと行なっていたようだ。  何となく、ワインレッドの上下セットを選ぶと、手にして広げてみる。  ブラジャーは良い意味で布の面積が少ない。ショーツは薄い布地で透ける所は透け、お尻と正面の大切な箇所はうまく隠している。これは下着専門店に並ぶ芸術品で、かなり値段が張るだろう。あんな女には勿体ない。これらをベッドに置くと、机の上の箱を開ける。中はウィッグ。隣には肌色の半球型の塊が二つ。手作りの人工胸だ。この半球の塊の平たい部分に、スティック状の特殊な接着剤を塗る。  塗り終わると、平面部分を自身の平たい胸に押し付けた。もう一つも同じようにする。数分と経たずに二つの塊は優美の肌に吸い付くように固定された。境目がわからなく、落ちることも無い。弾力も大きさに合っている。  まずはブラジャーを着ける。胸を抑えないと下の服が邪魔で着られないからだ。今の優美にとっては慣れたも同然で一回でホックを留める事が出来た。
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