第1章

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 お笑い芸人の、木間(きま)タカシと遊佐(ゆさ)トオルは、今、人気絶頂のお笑いコンビ「ハーモニー」で、コンビを組んでいて、正に「脂がのっている」芸能人だった。少し、シャイでメランコリックな雰囲気のボケ担当の笑いの天才、タカシに対して、ツッコミ担当の相方のトオルは、直情型で、そのアンバランスで、シュールな漫才やコントは、縦社会とも言われる「お笑い界」のベテラン芸人たちからも、一目置かれるほどの存在だった。 「トオルさん!また、タカシさん遅刻ですかぁ!?」  マネージャーの井原は、何度目か?数え切れないタカシの勤怠の悪さに、ほとほと嫌気が差してきていた。 「すみません……アイツ、しばいたろうかなぁ!!」  タカシは、だいたい、こういう時は、携帯電話の電源を切っていたので、いつ現場に現れるかは、長年の付き合いのトオルにさえ、予測がつかなかった。 「今日は、ゴールデンの時間帯に放送されるVテレビの、クイズアクションの収録ですよ~!!大物芸能人が、沢山出る……ドタキャンなんてことになったら……」 「司会は、三木タロウさんだったっけ?」 「そうですよ~!芸能界のドンと言われる、あの三木タロウさんの特番ですぅ~!!」  井原は、五秒おきに腕時計を確認しながら、タカシが、早く来ることを、藁(わら)にも縋(すが)る思いで、祈っていた。 「まったく……知らねえよ!俺は!!」  トオルも、さすがに今回は、大変なことになりそうな、そんな嫌な予感がしていた。  結局、タカシは、番組に現れなかった。 「遊佐君、ちょっと来て!!」  収録終了後、司会を務めた、芸能界の重鎮、三木タロウにトオルは、いきなり呼び出された。 「今日は、相方の木間は?」  ネクタイをほどきながら、三木は、トオルにタカシの事を尋ねて来た。 「すみません。今日は、体調不良らしくて……熱も相当あったみたいで……」  トオルは、適当な嘘をついて、その場をなんとか凌(しの)ごうと必死だった。 「あんまり、芸能界を、なめてると、そのうち痛い目にあうぞ!!よく言って聞かせておけ!!」 「はい、申し訳ありませんでした!!」 「なんで、俺が怒られなきゃいけねえんだよ!!」  トオルは、タカシの事で何度、こんな思いをしたか?さすがに今回は、相当頭にきていた。 「まあまあ、トオルさん。気を取り直して、焼き肉でも食べに行きませんか?」
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