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「あっ!これ、ですか?」
ヒカルが、また即興で違う曲のイントロ部分を演奏した。
「そうそう!その曲!すごくいいと思うよ!」
「……この曲は……」
「ん?どうしたの?」
「私が……私が、好きな人の為に最近書いた曲です……」
「へぇ~!素敵じゃん!!」
「あの……私、ピアニストになれますか?」
「う~ん、俺は、クラシックとか全然わかんないけど……」
「この企画自体が、君の夢を叶えてあげる企画だから。ドイツに留学したいんだよね?」
「はい、ドイツに留学して、もっとピアノを学んで、ピアニストになりたいです!」
「そこまでの、道筋は、番組で作ってあげられる。だけど、その先までは、何も保証が出来ないよ。君の、やる気次第。もっと残酷に言っちゃえば、才能次第ってこと!」
「じ、自信ないです……」
ヒカルは、蚊の鳴くような声で、そう言った。
「自信なんて、始めっから、誰だって無いよ!それでも、やらなきゃいけないんだ!」
「でも……」
「ヒカルちゃん、さっきの曲、好きな人に向けて書いたんでしょ?」
「は、はい……」
「その人が、誰だか俺は、知らないけど、少なくとも、俺は、感動した!」
ヒカルは、小動物のように小さく縮こまってしまった。
「君には、無限の可能性がある!いや、誰にだって不可能って言葉は、チャレンジするまでは、結果が出るまでは、不可能じゃないんだ!」
「プッ!」
ヒカルは、タカシの熱弁に思わず、可笑しくて軽く吹きだしてしまった。
「俺も、自分で自分が何言ってるか?分かんなくなってきた……」
「アハハ!」
ヒカルは、大きな声で笑い出した。
「ちゃんと、大きな声で笑えるじゃないか!大丈夫!」
「はいっ!」
この日一番元気よく、ヒカルは、タカシに応えた。
ヒカルが、ドイツに出発する日、番組は、特別生放送で、有野ヒカルの旅立ちを、ハンディカメラで、密着中継していた。
「さあ、いよいよ、あの有野ヒカルちゃんが、ドイツに留学する日がやってきました!この企画を、最初に、拾い上げた僕の相方、木間タカシは……」
トオルは、隣にいるはずのタカシが、また居ない……代わりに等身大のタカシのパネルが、ふざけたポーズを取って突っ立っていた。
「また、ドタキャンかよっ!!」
「ふざけんな!アイツが、拾い上げた企画だぞっ!ヒカルちゃんも、航空会社も密着中継に快く応じてくれたのに~~!!」
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