第1章

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「あっ!これ、ですか?」  ヒカルが、また即興で違う曲のイントロ部分を演奏した。 「そうそう!その曲!すごくいいと思うよ!」 「……この曲は……」 「ん?どうしたの?」 「私が……私が、好きな人の為に最近書いた曲です……」 「へぇ~!素敵じゃん!!」 「あの……私、ピアニストになれますか?」 「う~ん、俺は、クラシックとか全然わかんないけど……」 「この企画自体が、君の夢を叶えてあげる企画だから。ドイツに留学したいんだよね?」 「はい、ドイツに留学して、もっとピアノを学んで、ピアニストになりたいです!」 「そこまでの、道筋は、番組で作ってあげられる。だけど、その先までは、何も保証が出来ないよ。君の、やる気次第。もっと残酷に言っちゃえば、才能次第ってこと!」 「じ、自信ないです……」  ヒカルは、蚊の鳴くような声で、そう言った。 「自信なんて、始めっから、誰だって無いよ!それでも、やらなきゃいけないんだ!」 「でも……」 「ヒカルちゃん、さっきの曲、好きな人に向けて書いたんでしょ?」 「は、はい……」 「その人が、誰だか俺は、知らないけど、少なくとも、俺は、感動した!」  ヒカルは、小動物のように小さく縮こまってしまった。 「君には、無限の可能性がある!いや、誰にだって不可能って言葉は、チャレンジするまでは、結果が出るまでは、不可能じゃないんだ!」 「プッ!」  ヒカルは、タカシの熱弁に思わず、可笑しくて軽く吹きだしてしまった。 「俺も、自分で自分が何言ってるか?分かんなくなってきた……」 「アハハ!」  ヒカルは、大きな声で笑い出した。 「ちゃんと、大きな声で笑えるじゃないか!大丈夫!」 「はいっ!」  この日一番元気よく、ヒカルは、タカシに応えた。  ヒカルが、ドイツに出発する日、番組は、特別生放送で、有野ヒカルの旅立ちを、ハンディカメラで、密着中継していた。 「さあ、いよいよ、あの有野ヒカルちゃんが、ドイツに留学する日がやってきました!この企画を、最初に、拾い上げた僕の相方、木間タカシは……」  トオルは、隣にいるはずのタカシが、また居ない……代わりに等身大のタカシのパネルが、ふざけたポーズを取って突っ立っていた。 「また、ドタキャンかよっ!!」 「ふざけんな!アイツが、拾い上げた企画だぞっ!ヒカルちゃんも、航空会社も密着中継に快く応じてくれたのに~~!!」
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