第1章

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 数秒後、ヒカルの作曲した「メロディ」が、ちょっと、音程はずれているけど、それなりに一生懸命弾いているであろうタカシの演奏によって数分間、機内に心地良く流れていった。 「……メロディだ……私の……私の大好きな人。木間タカシさんの為に作ったメロディが、木間タカシさんによって演奏されている……うっうっ……」  ヒカルは、タカシの演奏する「メロディ」の美しい旋律を、聴きながら大粒の涙をボロボロとこぼしていた。 ……演奏が終わった…… 機内からは、全乗客から大きな拍手が、鳴り響いて、しばらくの間やむことはなかった。 「最後に、私のワガママを快くお引き受けくださった、スターエアラインズメンバーさま、そして、ご搭乗の全てのお客様に感謝申し上げます。ありがとうございました!」  飛行機は、約十五分遅れで、離陸した。 「ったく、あのかっこつけ野郎!!」  トオルは、更にボロボロ泣いていた。  ヒカルを乗せた、飛行機が遠い空を、飛んでいくのを、どこかのビルの屋上から、一人の男が、缶ビールを飲みながら、感慨深げに目を細めて見守っていた。 「ヒカル~!!頑張れよ~!!」  缶ビールとつまみを、しこたま買い込んで、タカシは、いつまでも、飛行機が消えていった空を眺めていた。   数年後、ピアニストとして大成功をおさめた有野ヒカルの日本での凱旋(がいせん)コンサートが、NHKホールで、開かれていた。 大きな喝さいを浴びて、ヒカルは、アンコールの曲を弾く準備を始めた。 「私の大好きな、そして、大切な一曲です。メロディ。聴いてください」  確かな技術を身に付けた、ヒカルの演奏する「メロディ」は、大観衆を魅了して、やむことはなかった。  スタンディングオベーションに包まれた観客の中に、コンビを解散して、それぞれの道を歩んでいたトオルとタカシの姿が、しっかりと、確かに存在していた。
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