side Y

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side Y

『願いを言え……』  まどろみのなかで、声が聴こえる。 『願いを言え……』  少女の、それでも確かな貫禄のある、声が聴こえる。 『願いを、言え……!』  その声に導かれるように、俺はゆっくりと、まどろみから浮上する。  そして…… 「さぁ、言え。貴様の願いを――!」 「うるせぇ黙れ」 「むぐッ!?」  俺の布団の上にまたがってやがったヤツに、アイアンクローをかました。  寝起きであまり頭が働いていないが、しっかりと顔面を捉えられたようだ。  俺がその感触に満足してると、ヤツは苛立たしげに俺の手を引っぺがしてビシッとこちらに人差し指を突きつけてくる。 「テんメェいきなりなにすんだ!」 「そりゃコッチの台詞だ。人の上またがって洗脳じみたことしやがって、それ何回目だと思ってやがる」 「ハッ。続けることに意義があんだよ」 「もっともらしいこと言ってんじゃねぇ」 「むぐッ!?」  内心「向けてきた指をへし折ってやろうか」なんて考えつつ再びアイアンクローをかましてヤツをどかすと、ゆっくり布団から出て時計を確認する。  ……朝の六時か、支度しねぇとな。  忌々しげにこちらを睨みつけてくるヤツを一瞥し、俺は立ち上がって台所へ向かう。  数枚の食パンをトースターに放り込み、その間に卵を割って混ぜて焼いて混ぜて。  ベーコンとほうれん草をバターで炒めたり、焼けたトーストにマーガリンだのジャムだの塗りたくったりなんだりと……そんなこんなで朝食の完成だ。  それらを適当に皿に盛りつけ、テーブルに運ぶ。 「おら、朝飯だ」 「…………」  いまだにむくれているのか、ヤツはそっぽを向いたまま返事をしない。  俺は呆れたようにため息をつくと、半眼で言う。 「ったく、いつまでンな顔してんだ。食わねぇと飯冷めるぞ」 「テメェこそいつまで願いを言わねぇつもりだ。もう一年だぞ? いい加減迷惑なんだよ」 「そうか。お前を“よびだして”からもう一年になるのか」  はやいもんだな。  あれからもう一年か。  俺はどこか感慨を抱きながら、コップに淹れたコーヒーを飲む。  口内をめぐるほのかな苦みとともに、一年前のあの日、コイツをよびだしたときの情景が脳裏に浮かんだ。
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