episode:1

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(この後に及んで、なにを変なことを聞いて来るんだ) 逃げ出して殺されたお客さん達、正義を振りかざして殺された先輩。 それを横目に、なにも出来なかった自分。 「私には、自分で何かを選ぶ権利なんて無いの」 顔を上げれば、銃口を静かに下ろし、ニヤッと笑みを浮かべる妖艶な男がいた。 「じゃぁ、俺がくれてやるよ。選ぶ権利を」 「はっ?」 自分の意思で人生を選んだことなんて、なかった。 「中立な立場で世界を壊す俺たちを見ていろ。傍観者のお前が、俺たちの行動が正しいと思うなら、仲間に加われ。逆に、間違ってるっつーなら、俺を殺せ」 ただ流されるままに、歩んでいた。 「いつでも俺の命を狙えるように、お前を側に置いといてやるよ。俺の名前は夜藤 仁。ジンで良い。お前は?」 血塗れの手を差し伸ばす男が、糸も簡単に意思の存在しなかった私の世界を、暗転させる。 その手を振り払って自分の足で立ち上がり、深く頷いた。 「じゃぁ、見定めさせてもらうわ。私の名前は天空 雲雀。私は、逃げも隠れもしない」 「へぇ、お前がヒバリか……」 一重の鋭い目つきで男は何か呟くが、周りの雑音に消されてよく聞こえない。 「え、今なんて……?」 聞き返すも、男は「いや、なんでもない」と言って、小さく首を左右に振った。 地上は土壌汚染が進み、作物は枯れ果て、動物は死滅してゆく。 開発された上空都市には、紙幣をたんまりと持つ選ばれし者しか、住むことが出来ない。 空が金に溺れ、自由を剥奪された、こんな世界で。 「ま、これからよろしくな、ヒバリ」 私は、その男と出会った。 これは金に塗れた歪な世界と戦う男と、初めて選ぶ権利を与えられた少女の、生きる場所を賭けた、物語である。 ───── (episode:2)へ続く ───── .
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