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──……ひとしきり赤子の如く泣き声を上げた私はいつの間にか泣き疲れ、ベッドに運ばれたようだった。
意識を切らしたのは時間にして10分くらいのことだろうけれど、濃厚な疲労感が身体に残っていた。
丁寧にかけられた布団をめくって上半身を起こせば、ソファに腰掛け煙草を吸っているジンと目が合ってしまう。
外はまだ暗く、時計の短針は1を指している。
「あ、ありがとうございます……。ベッドに運んでくれて」
同じ歳だと暴露されても、見た目も言動もそうとは思えないくらいに落ち着いているジンに対しては、どうしても敬語が抜けない。
ふぅーっとヤニ臭い白い息を吐けば、ギシギシと厭らしい音を鳴らし、彼はベッドに伸し上がってきた。
「俺がヒバリのこと探してた理由、もうひとつあんだけど」
整った顔が、鼻先まで近付いてくる。
先ほどまで流れていた涙が乾いて張り付いた表情で、作り笑いを浮かべてみた。
「ど、どんな理由ですかっ」
「俺、ずーっとヒバリの両親からヒバリの話を聞かされててよぉ。もう、何回も何回も。ウゼェってくらいに同じ話聞かされてさぁ、いかにあの子は可愛いのなんのって」
「あ、なんかそれはごめんなさい」
1回会って、ぶん殴ってやろうかとか、そんな理由かな?っと次の発言を待ってみる。
「今ごろ、ダンサーとして絶対成功してるわ!なんて力説されてよぉ。そしたら、日に日に段々、どんな奴か会いたくなってきてさ。興味が湧き始めて。ずっと、空を見上げてた。顔も知らない、会った事すらない女の子に、恋い焦がれて。空を、見上げてた」
突然、ふわりと優しいキスが、唇に落とされる。
「それが、俺がヒバリに会いたかった、もうひとつの理由。最期にお前と出会えて良かった。じゃぁな、おやすみ」
それだけ言うとジンは静かに扉を開けて、出て行ってしまった。
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