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取り押さえられていた男が、黒髪を揺らしてゆっくりと立ち上がる。
「なぁ、お前ら。こんな詩を知っているか?」
鋭い眼光は、腐敗した世界そのものを恨んでいるように見えた。
「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり~ってな。まぁ、大昔に作られたもんだが、俺ぁこの詩が好きでな」
この場から逃げ出そうとした男性客が、彼の後ろに控えている戦士に、心臓を撃たれた。
撃たれた男性客は、痙攣してからすぐに動かなくなってしまった。
黒髪の男はそんな惨状を気にも止めずに瞳を閉じ、両手を大きく広げる。
「嗚呼、聞こえる。煌びやかなサイバーネオンが弾け飛び、金の亡者達が慌てふためく、無様な音が。なぁ、お前らは空から俺たちを見下ろして、神にでもなったつもりでいたか? 神など、存在しない。 全ては、戦った者だけが勝ち取ることのできる、現実があるだけだ。さあ、今度はお前らが天を仰げ」
広げていた両手を下げ、逃げ出そうと身構えて僅かに動いた客数人を、銃ひとつで葬り去っていく。
「俺たちは『survivor』。地上から這い上がってきた、この腐りきった世界を造り直す者たちだ」
……これが私の世界を打ち壊した、夜藤 仁との出会いだった。
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