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「『カランコエ:たくさんの小さな思い出』を孫から勧められたのはね、主人の思い出や気配が、一緒に暮らしていた家からなくなっていくことがなんとなくさみしいからなの。今でも時々、ご飯を二人分用意しちゃうこともあるのよ。」
そう言うローザの顔色は暗い。
「それに家鳴りがすると、もしかして主人が帰ってきたのかしら、なんて思ってしまうの。こんな歳になって、まださみしいだなんて、情けない話よね」
「いいえ、そんなことはありません。長く連れ添った方を亡くされて、さぞお辛かったでしょう」
ローザは手に持っていたカバンからハンカチを取り出し、目元に当てる。マリーの心からの言葉に、今は亡き主人との日々を想い、涙したのだろう。
鼻をすする音が一度だけ響くと、ローザはゆっくりと話し始めた。
「ありがとう。そう言っていただけるだけで、救われた気持ちです。ところで、この花薬の効能はどういったものになるのかしら?」
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