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そんな正反対の二人が、なぜ同じ場所で作業をしているかというと、花薬屋を共同経営しているからなのである。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
「はーい、今向かいます」
先ほどまでの荒い口調はどこへやら。マリーはさっと立ち上がり、工房と店とを分ける扉を開ける。訪れた客──それなりに年を召した女性──はホッとした様子で、カウンターの外からマリーを見ている。猫かぶりにすっかり騙されているようだ。
「あの、カランコエの花薬はありますか?」
「カランコエでしたらいくらか在庫がございますが、おいくつご入用でしょうか?それから、どういった用途でのご購入かをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
マリーの質問に、訪れた客は少し驚いた様子を浮かべる。どうやら花薬を使うことは初めてらしい。初めて花薬を購入する人々は、同様の反応を見せるのが常になっている。
「そういったことまでお伝えしないといけないんですね。初めて使うものですから、存じ上げませんでした」
「ええ。花薬はともすれば劇薬になりかねませんので、国に販売履歴、お客様の用途についての報告が義務付けられています。ご協力をお願いいたします。」
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