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マドックは目を通すと、誓約書にサインをする。文句の一つでも出てくるかと思ったが、何も言わなかった。その驚きを顔には出さないようにして、誓約書を検める。
「はい、確かに。それではバーンハートさん必ずお渡しくださいね」
一度だけうなずき、マドックは帰っていった。
──よりにもよって、何故あいつに見られてしまったのか。もっと周りを見ておくべきだった。
帰り道、マドックの頭の中は後悔でいっぱいだった。
悪いことをしていたわけではない。むしろ良いことだと言えるだろう。見られたのは早朝に市場の掃除をしていたときなのだから。しかし、そのとき周りにいたメンバーがあからさまだった。柄が悪く、見るからに問題児と言った風貌ばかりだ。
気弱そうな見た目のマドックは、昔からそうした悪い連中に絡まれることは日常茶飯事だった。けれどもともと腕っぷしは強く、ことごとく返り討ちにしたことで、結果的に舎弟のような存在が増えていった。
バーンハートに見られたのもその舎弟連中と一緒だったときだ。文句を垂れる面々を叱り飛ばしていると、バーンハートが軽薄そうな笑顔で近寄ってきた。
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