友愛の先に

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「もちろん、マドックさんと私は違う人間ですし、私が言った通りの考えを持っているかは分かりません。たとえ興味を持ってくれたのだと分かっても、距離を詰められて怖いと思う人がいることを、覚えておいてください」  いまいち納得しきれていないバーンハートだが、こればかりは聞くよりも経験してみなければ実感はできない。けれど聞かせることで、その人の心に受け止める土壌を作ることはできるだろう。  何も知らず、自分の中の常識だけでも行動することはできる。けれどそれでは自己中心的な行動しか生まれない。自らの常識を疑い、相手の心の動きを知ろうとすることで、ようやく自分本意ではない行動を選べる可能性が生まれる。  もっとも、周囲の心すべてを慮って行動しようとすれば、がんじがらめになって動くことすらできなくなってしまう。ある程度の割り切りも必要なのだ。  バーンハートは割り切りだけが先にできるようになってしまい、自分の常識を疑う術を知らないように見えた。だからユラは、バーンハートが違う考えを受け入れられるようにしたかった。 「分かったような、分からないような」  整った眉を寄せて、バーンハートはうなる。
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